5.2. 自分に合った英語のスタイルを確立する
どの国の言語もそうですが、英語を使って一つのことを伝えるにも、色々な言い方、もしくは書き方があり、同じ内容でも伝え方によって相手が持つ印象や、伝えた事柄の受け取られ方も変わってきます。
例えば、来週の火曜日の午後5時までに、相手からのインプットが欲しい旨を伝えるにも、その伝え方は様々です。
① Could you please provide me with your inputs by next
Tuesday at 5PM?
② I would like to ask you to provide your inputs by next Tuesday
at 5PM.
③ Please provide your inputs by next Tuesday at 5PM.
④ Please send your inputs to me by 5PM next Tuesday.
⑤ Please confirm that you will provide your inputs by next
Tuesday at 5PM.
⑥ Due date for your inputs is 5PM of next Tuesday.
⑦ I expect receiving your inputs by next Tuesday at 5PM.
⑧ Send your inputs by next Tuesday at 5PM.
上の①から⑧は、全て同じ内容を相手に伝えていますが、伝え方は違います。(上の8つ以外にも伝え方はまだまだあります。)①や②は丁寧な表現で、情報の提供を「お願いする」立場での伝え方です。下に行けばいくほど文章の表現は高圧的になり、「お願い」から「要望」に、そして「要求」から「命令」に近い伝え方になっています。(⑧は、完全に「命令文」です。)当然この情報を受け取る相手も人間ですので、情報の伝えられ方によって、相手に対して抱く印象や感情は異なります。同様に、上の要求を相手がどのようなリアクションをとるかも変わってくるでしょう。
上の文章でどのスタイルがよくてどれが悪い、または、海外の仕事相手とのビジネスコミュニケーションは何番のスタイルを使ったほうがよい、というものはありません。また、①から⑧の中で、どのスタイルが一番効果的かというものもありません。ビジネスの世界では、状況・環境は常に変化しています。ある状況では丁寧な言い方が最も効果的である場合もあれば、多少高圧的な言い方をしたほうが効果的である場合もあります。
とは言うものの、先方とビジネスリレーションシップを構築していく、もしくはプロジェクトを進展させていくことを考えますと、常に活用することが適切でないスタイル(特に⑥~⑧)があることも事実です。また、社会人としてビジネスマナー上ふさわしくない言い方や、自分が勤める会社の社員として(または自分の会社を代表する立場として)使用すると問題が生じかねないスタイルがあることも、また事実です。
ここでお伝えしたかったのは、英語には日本語や他の国の言葉と同様に、同じことを伝えるにも表現の仕方がたくさんあるということです。また、ビジネスを進めていく上で、どのスタイルを使うことがNGで、どれを使えば大丈夫、といったものはないということもご理解頂ければよいと思います。数ある表現のスタイルの中から自分に合ったスタイルを確立することが、海外の人たちとコミュニケーションをとる際に重要となります。このように自分の英語スタイルを確立することを、「セルフ・ポジショニングを築く」といいます。
セルフ・ポジショニングの構築は、自分の英語コミュニケーションのスタイルに常に変わらない部分、つまり一貫性を生み出します。同じスタイルを用いたコミュニケーションは、海外のパートナーに自分のコミュニケーションスタイルと自分自身を一致させる(結びつける)機会を与えます。これが相手に自分の規則性・パターンを理解させるきっかけを与え、自分が「予測可能な存在」として認識されるようになるのです。
例えばここに山田さんという人がいるとします。山田さんは海外のカウンターパート(Aさんとしましょう)に情報を伝えるときは、必ず上の英語スタイル例の①や②のスタイル(丁寧でフォーマルなスタイル)を使っています。Aさんからすると、山田さんから伝えられる情報(直接話しをしたり、文書によって送られたりする情報)はいつもフォーマルなスタイルなので、次に山田さんから発信される情報のスタイルもフォーマルなスタイルであると予測できるようになります。つまり、山田さんはAさんにとって「予測可能な存在」になり始めた訳です。さらに、山田さんの英語のスタイルが同じなので、Aさんの山田さんに対する情報伝達のスタイルも同じものになります。そのスタイルが山田さんと同様にフォーマルなスタイルになるかどうかは分かりませんが、一貫性のある相手に対してのコミュニケーションは、自ら発信する情報も一貫性を持たせることになります。この現象を山田さん側から見ますと、今度はAさんが山田さんにとって「予測可能な存在」になり始めたことになります。山田さんとAさんは、警戒心を解いたビジネスリレーションの構築に向けて大きく一歩踏み出したことになります。