セルフ・ポジショニングを確立していく上で重要なことは、自分に合ったスタイルを選び、それを変えないことです。一度使うと決めたスタイルを変えることは、海外の人とのビジネスリレーションシップの構築に大切な一貫性を崩すことになります。この行為は「予測可能な存在」になることを放棄し、仕事(任務)を遂行する上で邪魔になる警戒心を再び作り出すことにつながります。
また、自分のセルフ・ポジショニングをコミュニケーションをとる相手によって変化させることは、得策とは言えません。情報交換する海外の人たちが、同じ組織・会社に所属していても、または全く違う会社の人たちでも、組織上、取引上、そして人間関係上、どのようなつながりがあるかを完全に把握することは難しいことです。全くつながりがないと思っていた人たちでも、実はつながっていたり、また、今は関係がなくても近い将来関係を持つことになったりすることは、今の世の中では珍しいことではありません。
こうした環境で相手によって自分のセルフ・ポジショニングを使い分けすることは、大きなリスクを伴います。もし仕事相手に自分には複数のセルフ・ポジショニングがあることが分かってしまった場合、この人との間で築いた一貫性は、やはり崩壊してしまいます。この一貫性が崩れても問題ないくらいビジネスリレーションシップを構築できていればよいですが、もしそうでない場合は再び不必要な警戒心に悩まされることになるので、注意が必要です。
セルフ・ポジショニングを築くことは重要なことです。しかし自分のスタイルを決めるにあたり、あまり深く悩む必要はありません。自分に合ったスタイルを選ぶこと、つまり自分に一番しっくりくるものを考えればよいのです。新たな人格を作ったり、背伸びしたりせず、身の丈に合ったものを築いていけばよいのです。参考までに、下にセルフ・ポジショニングを構築する際に考えると便利なポイントまとめてみました。これらについて考えることで、おのずと自分のスタイルは出来てきます。
■ 自分の性格
○ 自分の性格上、どのスタイルを使うことが一番自然か。(窮屈
に感じたり違和感を覚えたりするスタイルは長続きしません。)
○ 自分が伝えたいことを伝えるのに、一番楽だと思うスタイルは
どれか。
■ 自分の英語スキル
○ 今の自分の英語スキルで、一番無理なく活用できるスタイル
はどれか。
■ 相手が持つ自分の印象
○ 自分のカウンターパートにどんな人だと思われたいか。(相手
が予測することになる自分とは、どんな自分?)
■ 自分の任務を達成する
○ 与えられた仕事を達成する上で、一番適したスタイルはどれ
か。
○ 任務を達成する上で、どんな人たちと関わりを持つのか(管理
職?営業?技術?製造?など)。そしてこれらの人たちとコミ
ュニケーションをとる際、どのスタイルが一番効果的か。な
ど…。
例えば、『相手に対して丁寧な形のコミュニケーションをとりたいけれど、そんなに英語が得意ではない』という人は、①のフォーマルなスタイルがベースで③の単刀直入なスタイルの要素を取り入れたスタイルになるでしょう。また、『相手に身近な存在だと思ってほしいけれど、テキパキと情報交換する人だとも思われたい』という人は、③の単刀直入なスタイルと②のインフォーマルなスタイルをミックスさせたスタイルになるでしょう。
何事においても、頭の中に思い描いたことを最初から思い通りに形にするのは難しいことです。自分の英語のスタイルを文章や言葉に表すことも、つまりセルフ・ポジショニングを築くことも同様です。最初から思う通りのスタイルにならなくても問題ありません。焦らずゆっくりと自分のスタイルを作り上げていく気持ちで取り組むことが大切です。
5.4. セルフ・ポジショニングが揺らぐと…
ここでは、セルフ・ポジショニングの構築が上手くいっている例を挙げるだけでなく、上手くいかないケースを考えてみましょう。上手くいっている例よりも、そうでない状態を見たほうが、セルフ・ポジショニングの役割と重要性が見やすいからです。
状況設定
■ あおぞらテック株式会社の酒井誠一さんが、自社製品の部品購
入先である中国の正華工業の(Zhenghua Industryの陳 幸民さ
ん(Chen Xingminさん)に連絡をする。
■ 陳さんは、あおぞらテックの担当窓口になってまだ1週間ほどしか
経っていない。これまで5年の間、担当していた周さん(Zhouさ
ん)は人事異動のため、別の部署に配属となった。