第5章 セルフ・ポジショニング 【7/8】

予測可能な存在になることのすすめ

  

 (酒井さんから陳さんへの返信)

 

   Dear Mr. Chen,

 

   You are supposed to comply with our request for replacing

   defective parts at your cost. This arrangement has been made   

   between Zhenghua and Aozora Tech years ago. I don’t

   understand why you are not aware of this very important

   agreement between Zhenghua and Aorzora Tech. Please talk to

   Mr. Zhou who was our contact person before you are assigned

   to your current job role. He knows what I am talking about.

 

   Please send 750 new parts as soon as possible as I requested

   in my original email to you.

 

   Best regards,

   Seiichi Sakai

 

 酒井さんのセルフ・ポジショニングの変化にお気づきですか? 先ほどのフォーマルなスタイルとは違い、高圧的な形で陳さんの返答に対する不快感を表しているのと同時に、代替え品の輸送を再度依頼しています。酒井さんにしてみれば、非はすべて陳さん側にあるのだから、仕方がないと思うかもしれません。その気持ちはよく分かる、と思う方も読者のみなさんの中にもいるのではないでしょうか。

 

 しかし、陳さんにしてみればどうでしょうか。陳さんは別に嫌がらせをしようとしているのではなく、正華工業の不良品に対する通常のポリシーを伝えたまでのことです。陳さんにしてみれば、当たり前のことを行っただけなのに、なぜこんな高圧的な要請を受けるだろう、と思うでしょう。酒井さんからの連絡は、陳さんにとってもやはり気分のいいものではないでしょう。

 

 この経験で、陳さんの頭の中には、酒井さんは一見丁寧そうだけれど、高圧的な態度をとる人だという情報がインプットされてしまいました。警戒心を解いて仕事をスムースに進めるためのセルフ・ポジショニングの構築が進まないまま、警戒心だけは増えていく状況になっています。

 

 上の酒井さんのメールを受け、陳さんはどのような対応をするでしょうか。酒井さんに対しては、理不尽なことを言う、警戒すべき人として扱うことになるでしょう。そうした人に、前任の周さんに確認するよう言われても、言われた通りにしたくないと思ってしまうかもしれません。もしそうだとしたら、こんな返答を送るかもしれません。

 

   Dear Sakai,

 

   What I have told you is Zhenhua Industry’s company policy. If

   you need additional 750 parts from us, please send a purchase

   order for them…

 

 上はまさに、「売り文句に買い文句」のようなコミュニケーションになってしまっています。これは仕事を進める上では最悪のパターンと言ってよいでしょう。こうなってしまっては、お互いの誤解を解きビジネスリレーションシップを構築(というよりも修復)するまでには、相当な時間と労力を要してしまうでしょう。言うまでもないことですが、このプロセスで使わなければならなくなる時間もパワーも、すべて無駄なものです。

 

 ここではセルフ・ポジショニングを構築しない、または変化させてしまうことのデメリットについて考えてみましたが、どのような感想を持ちましたか。セルフ・ポジショニングの構築と仕事を円滑に進めることのつながりが、お分かり頂けたでしょうか。上で設定した状況は、紙面スペースの関係上、わずか数回の情報のやり取りでセルフ・ポジショニングが揺らいでしまうケースを考えました。実際のビジネスの環境では、これよりももっと長くかかるのケースもあるでしょう。どのようなケースでも一つ必ず言えることは、自分のセルフ・ポジショニングを築くのは時間がかかる作業ですが、崩してしまうことはいとも簡単にできる、ということです。

 

 

5.5. もっと簡単にセルフ・ポジショニングを築く

 

 セルフ・ポジショニングを築く必要性も、自分の英語のコミュニケーションスタイルを確立する方法についても理解できた。しかし、自分の英語スキルを考えると、ちょっとハードルが高い、と感じている人もいるかもしれません。ここまでこの章で紹介しましたセルフ・ポジショニングは、自分が作成する英語の文書全体のスタイルを決め、築いていくことになりますので、ある程度英語のスキルがないと直ぐに活用しにくいと思われるかもしれません。

 

 しかし、決してそんなことはありません。セルフ・ポジショニングを築くのに、正しい英語は必要ありません。5.3で紹介しました3つの英語のスタイルは、英語を語学的に正しく活用できなければ使えないものではないからです。セルフ・ポジショニングが大事であると納得して頂いたなら、自分のできる範囲で無理なく形を作っていくことをお勧めします。「ローマは1日にして成らず」です。スタイルの確立に多少時間を要しても問題ありません。自分のスタイルを確立するということが重要なのです。

 

 

  

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