第6章 仕事英語を身につける 1 【2/8】

情報を確実に相手に伝える手段

 

  状況設定(続き)

  ■ 交渉はまだ初期段階。先日XYZより見積と製造委託における諸

    条件が送られてきた。先方のレスポンスは当初の予定よりも早

    く、いろはとの関係構築に対して積極的であることがうかがえ

    る。

  ■ 提示された内容については、交渉をしながら詳細を詰めなけれ

    ばならない事柄がたくさんあるが、その中の最大の懸念事項

    は、製品発注から納品までのリードタイムが5週間で提示されて

    いること。

  ■ いろは株式会社としては、リードタイムが5週間というのはあまり

    にも長すぎる。どんなに長くとも3週間でなければ、製造委託その

    ものを行う意味がなくなってしまう。

  ■ 近藤さんは、提示されたリードタイムの再検討を要請する文書を

    EメールでLiさんに送る。

 

 事前準備作業としてまず行う必要があるのは、相手に伝える情報の整理をすることです。上に挙げた状況においては、少なくとも以下の事柄を検討し、整理していく必要があると思います。

 

  ① 自分が相手に一番伝えなければならないことは明確になってい

    るか?(リードタイム短縮の要請)

 

  ② 具体的に、伝えたいことをどのように相手に伝えるのか?

    ■ リードタイムをもっと短くしてほしいとだけ言う?

    ■ 具体的な希望するリードタイム(3週間以内)を伝え、相手に

      再検討してほしいと言う?

    ■ 希望するリードタイムを伝えると共に、先方が要望通り短縮す

      るための必要な条件は何かも合わせて聞く? など

 

  ③ リードタイムが5週間である理由はなぜかを知る必要があるか?

 

  ④ なぜこちらが短縮の要請をしているのかを相手に理解してもらう

    必要があるか?

 

  ⑤ リードタイム短縮のために、こちらが妥協できるポイントを相手に

    伝える?(例:価格、品質管理の条件、MOQ・最小注文数量など

    をもっと先方の有利な条件にしてもよい)

 

  ⑥ この要請に対する返答をいつまでに入手したいのか?

 

 上の③から⑤については、先方と協議する必要があることは間違いないでしょうが、このタイミングでこうした内容の情報を入手・提供する必要があるかについては検討する必要があると思います。またこの場合、相手にEメールで連絡をとるというアクションですので、メールの送り方についても考える必要があります。例えば:

 

  ■ このXYZ Corporation への要請は、本当にMike Liさんが正しい

    送り先なのか?

  ■ 送るのはMike Liさんだけでよいか?(他の人をTO:リストに加え

    る?またはCC:リストに加える?)

  ■ いろは株式会社のメンバーで、このメールのCC:リストに加える

    必要がある人はいるか?

 

 上に挙げた確認事項をクリアにしていくことで、このタスクに関わる事柄が明確になり、全体像をより具体的に把握することができるようになります。つまり、目的を達成する上で直接関係する事柄(人、部署、アクションなど)と、間接的に関わる事柄もより鮮明になってくるわけです。そして現時点で相手に伝えるべき内容と、まだ伝えなくてもよい情報とを区別し、整理できるようになっていきます。

 

 整理ができたところで近藤さんはLiさんに送る文書の作成をスタートしてもよいのですが、何度もお伝えしています通り、海外の人とのコミュニケーションはリスクの高いアクションです。実際に文書の作成に入る前に、念には念を入れ、もう一つしておくと役に立つ事前準備の作業があります。それがシナリオ作りです。

 

 シナリオ作りとは、相手に送った情報に対して、どのようなリアクションが来るかを想定し、それぞれのリアクション(シナリオ)について、自分が次にとるべきアクションを考える事前準備作業をいいます。シナリオ作りを行う利点は、大きく分けて3つあります。1つ目は、シナリオ作りは自分が伝えた情報を受け、カウンターパートがとるアクションを予測するタスクなので、相手の立場になって物事を考える機会を持てることです。もちろん、文化の異なる海外の人や企業のことですから、いくら相手の立場になろうとしても完全に分かることはないでしょう。しかし、このプロセスを経ることによって、先方に送る情報には仕事を進めていく上で逆効果になるかもしれない情報を可能な限り取り除くことができるようになります。

 

 シナリオ作りの2つ目の利点は、物事が進む方向性について様々なケースを考えることで、これから起きる可能性のあることをある程度想定内の出来事にできることです。事前準備の段階で相手から送られてくるリアクションを想定することができていれば、それに対してあわてることなく、迅速にそして冷静に対応することができるようになります。とは言うものの、これもやはり海外の企業や人たちが相手のことですので、いくら考えても結果的に相手のリアクションが想定外になってしまうこともあります。たとえ想定外の状況になっても、事前に色々なシナリオを考えておけば「次の一手」をより柔軟性をもって検討できるようになるのも事実です。

 

  

  

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